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データ / 暮らし

生まれる日を決めていたのは、
病院の営業日と法律でした

子どもが生まれる日は、縁起のいい日に寄っているのではないか。そう思って、10年分の出生記録を数えてみた。結果は、ほとんど寄っていなかった。代わりに、まったく別のものが出てきた。生まれる日を動かしていたのは、願いではなく、病院の営業日と法律だった。

Santa Works2026.07.31読了 約5分出典つき / 一次資料から
曜日1.68最多の火曜と最少の日曜の差
祝日0.69ふつうの平日を1としたとき
六曜1.01大安と赤口の差。ほぼ無い
対象3,6532015〜2024年・欠損なし

この記事のポイント

  1. 01六曜(大安・仏滅などの6つ)による差は+0.9%。統計的には「差があるとは言えない」水準でした。
  2. 02一方、曜日による差は1.68倍、祝日は0.69倍。縁起とは比べものになりません。
  3. 034月1日から4月2日にかけて、出生数が38.4%跳ねます。祝日でも土日でもない一晩の段差です。
きっかけ
01

「大安に産みたい」は、あるのだろうか

きっかけは、ふと浮かんだ疑問でした。

カレンダーの隅に、小さく「大安」「仏滅」と入っていることがあります。六曜(ろくよう)といって、 先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口の6つが順に巡るものです。 旧暦の月と日から機械的に決まるので、日付とも曜日とも関係なく並びます。 大安は縁起がよく、仏滅はよくない、とされています。

結婚式や引っ越しの日取りをこれで決める人はいます。では、子どもが生まれる日はどうなのだろう。予定帝王切開や計画分娩なら、日にちをある程度は選べるはずです。縁起のいい日に寄せたい、と考える人がいてもおかしくない。

私自身は、出産は奇跡でもあるし、どうにもならない場面もある。そう思っているので、日取りを気にしたことがない、というのが正直なところ。

ただ、気にする人はいるだろう、とも思いました。そして調べられるはずだ、とも。六曜は旧暦から機械的に決まりますし、出生数の統計は公開されています。

数えてみた
02

ほとんど差がありませんでした

使ったのは、厚生労働省の人口動態統計のうち、報告書には載せていない「保管統計表」です※1。 出生の場所・月・日・時間まで分かれた詳細な集計で、2015年から2024年までの10年分、3,653日、8,549,425人が入っています。

日付ごとの出生数を六曜に振り分けました。ただし、そのまま比べると曜日の影響が混ざります。六曜は約6日周期、曜日は7日周期なので、標本が有限だと偏りが出るためです。そこで同じ年・同じ曜日の平均を1.00としたときの比で見ています。土日と祝日も除いています。

六曜別(同じ年・同じ曜日の平均を1.00とした比)
土日と祝日は除外
大安1.009
先負1.002
仏滅1.000
先勝0.999
友引0.996
赤口0.995
六曜95%信頼区間
大安1.0086±0.0094
先負1.0017±0.0083
仏滅0.9998±0.0084
先勝0.9987±0.0091
友引0.9963±0.0097
赤口0.9950±0.0091
点が推定値、横棒が95%信頼区間、破線が1.00。 大安がわずかに右にあるが、区間は1.00にかかっている

大安がいちばん多い。ただし、その差は0.9%。しかも95%信頼区間が1.00にかかっているので、差があるとは言い切れません。

大安と赤口を比べても1.014倍。100人のうち1人ぶんの違いです。

もう少し出るだろうと思っていましたが、予想は外れました。

代わりに出てきたもの
03

動かしていたのは、病院のカレンダーでした

同じデータを、今度は曜日で切ります。

曜日別の1日平均出生数
n=各522日
2,446
2,733
2,626
2,537
2,547
1,870
1,623
平日は土日の1.476倍。最多の火曜と最少の日曜では1.684倍です。

祝日も見ました。祝日を土日と一緒に数えると、土日の効果を二重に数えてしまうので、土日を除いた平日のなかだけで比べます。

  • ふつうの平日:2,598人
  • 平日にあたった祝日:1,797人(65日分)
  • → 祝日は、ふつうの平日の0.692倍

六曜が1.014倍だったのに対して、曜日は1.684倍、祝日は0.692倍。六曜の0.9%とは、大きさがまるで違います。

つまり、生まれる日を動かしていたのは縁起ではなく、医療機関が動いている日かどうかでした。予定帝王切開も計画分娩も、平日の日中に組まれます。

規模を出しておきます。仮に土日が平日と同じペースだったとすると、10年で867,658人、年に約8万7千人ぶんが平日側に寄っている計算になります。全出生数の10.1%です。当たり前のことが、これだけの量として現れている。

なお、この傾向自体は新発見ではなく、厚生労働省が平成12年の時点で「病院では平日の出生数が休日の約1.4倍」と報告しています※2。四半世紀後のいまも、同じことが起きているようです。

年末年始だけ、6日つづけて沈みます

1年365日の出生数(2015〜2024年の平均)
n=3,653日
151015202531
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月

マスに触れると、その日の平均出生数が出ます

少ない多い
12月の右端と1月の左端が、続けて沈んでいます。年をまたぐ6日間(12/29〜1/3)が、この並べ方だと図の両端に分かれて出ます。4月1日のマスも1つだけ沈んでいます。どちらも祝日でも土日でもありません。 縦の並びが月、横が日。濃淡は5段階(等頻度)。マスに触れると、その日の数字が図の下に出ます。

日付別に並べると、いちばん少ないのは1月1日(全日付平均の63.1%)でした。12月31日、1月2日、1月3日も同じように沈んでいます。

面白いのはその後、1月5日が120.5%で、1年で最多の日になります。

押し込められた分が、明けた瞬間に戻ってきている。生まれる日が動いている証拠が、いちばんはっきり見えるのがここ。

比較として、お盆を見てみます。8月13日から15日は95〜97%で、ほとんど凹んでいません。医療機関はお盆に閉まらないからです。

カレンダーの赤い日だけが凹んでいる。そう言い換えられます。

一晩の段差
04

4月1日の夜にある、38%の段差

もう一つ、祝日でも土日でもないのに沈んでいる日があります。4月1日です。

3月30日から4月3日まで
全日付平均を100%
3/3092.6%
3/3184.8%
4/176.7%
4/2106.1%
4/3108.3%
+38.4%4月1日から4月2日への増加。4月1日生まれは法律上ひとつ上の学年になる。
祝日でも土日でもない一晩に、これだけの段差がある。

理由は、法律です。文部科学省が公式に説明しています※3

年齢は「年齢計算ニ関スル法律」と 「民法第143条」により、誕生日の前日が終わる時にひとつ加算されます。4月1日生まれの子は、3月31日の終わりに満6歳になる。

そして学校教育法第17条は、就学を 「満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから」と定めています。学年は同施行規則第59条で「4月1日に始まり、翌年3月31日に終わる」。

結果として、4月1日生まれの子は、4月2日生まれの子より1年早く小学校に入ります。同じ学年のなかで最も幼く、いわゆる「早生まれ」の極みになる。

その差が、出生数に出ていました。

沈んでいるのは4月1日だけではありません。3月26日から30日は92%台、3月31日は84.8%で、月末にかけて少しずつ下がっていきます (3月1日〜25日の平均は96.7%)。学年の区切りは4月2日なので、3月末に生まれた子も、4月1日生まれと同じ学年に入ります。段差は一晩でできたのではなく、数日かけて下がりきった先にありました。

産む日を1日ずらせるなら、ずらす。そういう判断が、10年分・数万件の規模で積み重なると、統計に段差として現れる。誰かが号令をかけたわけでもないのに。

おわりに
05

願いではなく、制度と営業日でした

縁起を担ぐ気持ちは、多くの人にあるでしょう。でもデータに出てきたのは1%未満でした。

代わりにくっきり出たのは、病院が開いているかどうかと、その子が何年生になるかでした。願いではなく、制度と営業日です。

そもそも、選べる話なのか

書き終えてから、ひとつ思いました。

この記事は「日を選べる」という前提で始めてしまっています。大安に寄せたい人がいるはずだ、と考えたところから調べ始めているので。

でも、その前提が成り立たない人は少なくありません。2023年に日本で生まれた子のうち、生殖補助医療によって生まれたのは85,048人でした※4。同じ年の出生数で割ると、8.6人に1人です。

治療を続けて、願い、ようやく授かった人にとって、何曜日か、大安かどうか、という話は、たぶん最初から視野の外にあるんだと思います。無事に生まれてくれるかどうかの前では、日取りは順位がつかないほど後ろにある。

「選べる」という前提のほうが、限られた場面の話なのだと、逆に学ばせてもらった機会となりました。

自分が生まれた日を、自分では選べません。それは当たり前です。
ただ、選んだのが親でもなかった。

私たちの誕生日は、けっこうな部分をカレンダーと法律に決められている。 そして多くの場合、そもそも誰も選んでいないのかもしれません。

数字はすべて公開データから直接集計しています。間違いを見つけたら教えていただけるとありがたいです(contact@santaworks.net)。直します。

参考文献・出典

  1. ※1 厚生労働省「人口動態調査 人口動態統計 確定数 保管統計表(報告書非掲載表)出生7 出生数,出生の場所・出生月・出生日・出生時別」(e-Stat・statsDataId 0003411915)2015〜2024年。 本記事の数値は、この表からAPIで取得した生データを独自に集計したものです。 日別の積み上げが表の「総数」と10年すべて一致することを確認しています。
  2. ※2 厚生労働省「人口動態統計特殊報告 出生に関する統計」(7)出生曜日・時間別にみた出生。 平成12年時点の分析。
  3. ※3 文部科学省「4月1日生まれの児童生徒の学年について」。 学校教育法第17条第1項、学校教育法施行規則第59条、年齢計算ニ関スル法律、民法第143条。
  4. ※4 日本産科婦人科学会「2023年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績」。 出生児数は IVF 1,772人+ICSI 2,502人+FET(凍結融解胚移植)80,774人=85,048人として集計しました。分母の出生数(727,288人)は※1と同じ表から取っているため、 727,288 ÷ 85,048 で8.55人に1人。 一般に「8.6人に1人」と紹介されている数字と一致しますが、分母の取り方によって小数第1位は動きます(同じ2023年でも727,277人とする資料があります)。
  5. 六曜について:旧暦の(月+日)を6で割った余りから機械的に決まります。 旧暦の変換にはライブラリを用いたため、日本の天保暦とずれる可能性を考え、 外部カレンダー61日分(旧暦正月と閏月の切り替わりを含む)と照合して全一致を確認しました。

※ 本記事の数値は2015〜2024年の実測値です。
※ タイトルの「決めていた」は、偏りの原因をそう読んだ筆者の解釈です。データが示しているのは偏りの存在までで、因果を測定したものではありません。
※ 2月29日は10年間で3回しかないため、他の日付と同列には扱っていません(参考値:83.9%)。
※ 祝日は日付が固定のもののみを集計対象としています。春分・秋分やハッピーマンデーは 年によって日付が動くため、ふつうの平日に含まれています。したがって祝日の落ち込みは、実際にはもう少し大きい可能性があります。

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