DVの数字に入っているのは、
相談できた人だけでした
きっかけは、動画でした。配偶者からの暴力を受けたことがあるのは女性の約4人に1人、男性の約5人に1人。 そう聞いて、そんなに多いのか、と思いました。 出典に当たってみたら、その数字は3年前のもの。 では増えているのか——そこは、はっきりしません。 代わりに、もっとはっきりしたものが出てきます。この数字に入っているのは、誰かに言えた人だけでした。
この記事のポイント
- 01被害を受けた人の44.2%は、どこにも相談していません。 男性では57.2%。
- 02被害を受けた男性173人のうち、公的な相談窓口に届いたのは1人。
- 03「増えている」と言われる相談件数が数えているのは、被害の量ではなく届いた人の数です。
見ていた数字が、古かった
「女性の約4人に1人、男性の約5人に1人」。この言い回しは、令和2年度の調査のものです。報告書の概要版に、 ほぼこのままの文で載っています※1。
最新は令和5年度。2023年11月から12月にかけて無作為に選んだ5,000人に配り、2,950人(59.0%)から回収しています※1。
| 令和5年度・配偶者からの被害経験 | ある(計) | うち「何度もあった」 |
|---|---|---|
| 総数 | 25.1% | 10.7% |
| 女性 | 27.5% | 13.2% |
| 男性 | 22.0% | 7.2% |
母数は回答者全員ではなく、これまでに結婚したことのある1,838人です。
出典を開いたのは、増えているのかを確かめたかったからでした。その話は最後にします。先に、同じ報告書の別のページにあった数字を書きます。
4割の人は、誰にも言っていません
被害を受けたと答えたのは462人。そのうちどこにも相談しなかった人が44.2%です。男性では、半分を超えます(57.2%)。
被害を受けた人の12.6%は、命の危険を感じたことがある (女性15.6%/男性7.5%)。
被害を受けた人のうち、子どもがいる399人の30.8%は、子どもへの被害もあったと答えている(女性35.6%/男性22.8%)。
命の危険を感じた人が8人に1人いて、それでも4割は誰にも言っていない。この2つは、同じ462人の話です。
黙る理由が、男女で入れ替わります
相談しなかった人に、その理由を聞いています(複数回答)。
| 相談しなかった理由 | 女性(105人) | 男性(99人) |
|---|---|---|
| 相談するほどのことではないと思ったから | 46.7% | 58.6% |
| 自分にも悪いところがあると思ったから | 17.1% | 41.4% |
| 自分さえがまんすれば、なんとかやっていけると思ったから | 33.3% | 24.2% |
| 恥ずかしくてだれにも言えなかったから | 21.0% | 11.1% |
| 他人を巻き込みたくなかったから | 16.2% | 3.0% |
男性の41.4%が「自分にも悪いところがあると思った」と 答えています。女性の2.4倍で、この差は偶然では説明しにくい大きさです※2。女性のほうは「他人を巻き込みたくなかった」が16.2%で、 男性の5倍以上。外に向かって黙るか、自分に向かって黙るか。
ただ、いちばん多いのは男女とも「相談するほどのことではないと思ったから」でした。 女性46.7%、男性58.6%。命の危険を感じた人が12.6%いる、同じ462人の中で、です。
DV相談+(内閣府)… 0120-279-889/24時間
DV相談ナビ … #8008(最寄りの相談機関につながります)
緊急のとき … 110
公的な窓口に届いた男性は、173人のうち1人でした
では、相談した人はどこに相談したのか。届いているのは家族と友人でした。公的な窓口の数字は、 どれも数%しかありません。
なかでも、配偶者暴力相談支援センターに相談した男性は、173人のうち1人。女性も289人のうち8人です。
支援センターは、DV防止法にもとづいて全国に置かれている専門の窓口です。そこに届いているのが、この人数でした。
だから「増えている」の意味が変わります
警察庁によると、配偶者からの暴力事案等の相談等件数は令和6年に94,937件。前年比+7.1%で、DV防止法の施行以降で最多※3。 性別で開くと、5年で女性は+5.6%、男性は+44.9%(19,478 → 28,214件)。 増えた12,294件のうち、8,736件(71.1%)が男性被害者の増加です。
ここで FIG 01 を思い出します。男性被害者の57.2%は、どこにも相談していません。いちばん多く残っていたのは、男性側でした。
男性への暴力が増えたのか、男性が相談するようになったのか。 この数字は、それを区別できません。相談等件数は、被害の量ではなく窓口に届いた数だからです。
そして、最多を更新した年について、資料には小さく注が付いていました。
DV防止法の改正を受け、…令和6年4月1日施行以降、自由、名誉又は財産に対する脅迫についても計上
過去最多の年は、数える範囲が広がった年でもありました。平成16年、20年、26年にも同じ拡大があります。
では、被害そのものは増えているのか
ここは、はっきり書けません。令和5年度から、調査の対象が20歳以上(上限なし)→ 18歳以上59歳以下に変わっていました。60歳以上が丸ごと抜け、18歳と19歳が入っている。同じ調査の名前で、違う人たちを数えていたことになります。
内閣府はこれを、認知度のページでは「20歳〜59歳のみ」の再集計を併記して 処理しています。ところが被害経験のページには、過去の調査への言及が1つもありません。「令和2年度」も「参考」も、検索して0件でした。
公開されている集計結果(実数)には性別×年齢の内訳があるので※4、20〜59歳だけを足し直しました。女性は28.46% → 27.53%(−0.92pt)、男性は 20.44% → 21.88%(+1.44pt)。 見出しどうしなら女性は +1.6ポイントですが、揃えると向きが変わります。 令和2年度の対象者のうち20〜59歳は51.4%しかいないので、 動くのは当たり前でした。
ただし、揃えたあとの差も統計的に有意ではありません。8項目すべて、95%信頼区間が0をまたぎます。回答者2,950人のうち、 結婚したことがあるのが1,838人、被害経験があるのが462人。3年に1回・この規模では、数ポイントの変化は検出できません。
増えたのか、減ったのか。この調査からは分かりませんでした。
決めているのは、相談する前の自分でした
窓口に届いた件数は増えています。ただしそれが、被害が増えたのか、 届くようになったのかは区別がつきません。 被害そのものを測るはずの調査のほうは、変化を検出できる設計になっていない。見えている数字は、どれも「誰かに言えた人」を数えていました。
「相談するほどのことか」を決めているのは、
相談する前の自分。
黙った理由の最多が、男女ともこれです。女性46.7%、男性58.6%。命の危険を感じた人が12.6%いる母集団の中で、半分以上がそう判断していました。
その判断が正しかったかどうかは、この数字では分かりません。 分かるのは、半分以上の人がそこで止まっていることだけです。
そして FIG 03 のとおり、届いている先は家族と友人でした。 公的な窓口はどれも数%です。相談は、窓口から始めなくてもいい、とも読めます。
私は、自分の周りでは起きていないと思っています。
ただ、そう思えているのは、言わなかった人が4割いるからかもしれません。
だから、この記事で言えることは1つだけです。「相談するほどのことか」を決めるところから、相談していいはずです。下に窓口を置いておきます。24時間つながる番号と、 最寄りの相談機関につないでくれる番号です。
この記事の数字は、すべて出典の一次資料から直接転記、 または公開されている集計結果(実数)から再集計したものです。 間違いを見つけたら教えていただけるとありがたいです(contact@santaworks.net)。直します。
DV相談+(内閣府)… 0120-279-889/24時間/soudanplus.jp
DV相談ナビ … #8008(最寄りの相談機関につながります)
緊急のとき … 110
参考文献・出典
- ※1 内閣府男女共同参画局「男女間における暴力に関する調査」 (令和5年度・令和6年3月公表/令和2年度・令和3年3月公表)。 統計法に基づく一般統計調査で、平成11年度以降3年に1回。 令和5年度は全国18歳以上59歳以下の男女5,000人を層化二段無作為抽出、 郵送留置訪問回収法、令和5年11〜12月実施、有効回収2,950人(59.0%)。 令和2年度は全国20歳以上の男女5,000人、有効回収3,438人(68.8%)。
- ※2 「自分にも悪いところがあると思ったから」の男女差は、 比率の差の95%信頼区間が[+12.2, +36.4]ポイントで0を含みません。
- ※3 警察庁「令和6年におけるストーカー事案、配偶者からの暴力事案等、 児童虐待事案等への対応状況について」(令和7年5月22日公表)第2。 被害者の性別内訳と、計上対象の変遷(注3)はこの資料によります。
- ※4 同調査「集計結果(実数)」(e-Stat・政府統計コード00100201)。 令和5年度 statInfId 000040164460/令和2年度 statInfId 000032109850。 20〜59歳限定の数値は、この表の「性・年齢別」からの独自集計です。 公表値10件を実数から再現できること、および年齢別の積み上げが 全体と一致することを確認しています。
※ 被害経験の割合の母数は「これまでに結婚したことのある人」であり、 回答者総数ではありません。相談経験・相談しなかった理由の母数は、 それぞれ「被害を受けた人」「相談しなかった人」です。
※ 令和2年度と令和5年度は調査対象の年齢範囲が異なります。FIG 07・FIG 08 の経年比較は20〜59歳に揃えたものです。 信頼区間は比率の差の正規近似による95%区間です。
※ 令和5年度の集計表の年齢は令和5年11月30日現在です。 結婚したことのある1,838人のうち6人は60歳以上で、 20〜59歳(1,832人)はこの6人を除いたものです。
※ 警察庁の「相談等件数」は警察が相談等を受理した件数であり、発生件数ではありません。計上の対象は法改正のたびに広がっています(平成16年・20年・26年・令和6年)。 伸び率を示した令和2年〜令和6年の区間には、令和6年4月1日の拡大が含まれます。
※ 調査方法は両年度とも郵送留置訪問回収法ですが、 回収率は68.8%から59.0%に下がっています。 回答する人の性質が変わった可能性は、本記事では検討できていません。