Santa Works.
SANTA WORKS JOURNAL「忘れたくない」を、かたちに
つくった理由

覚えていることは、
才能ではなく仕組みでした。

人の話を覚えていなくて、損をしたことがあります。前に聞いたはずの話を、もう一度聞いてしまう。相手の顔が、少しだけ曇る。あれは、こちらの誠意が足りなかったから“だけ”ではありませんでした。覚えていられる量には、そもそも限界があるからです。それなら、根性ではなく仕組みで埋めればいい。ポケメモは、その考えからつくりました。

Santa Works2026.07.26読了 約5分つくった理由 / 出典つき

この記事のポイント

  1. 01忘れることは意志の問題ではない。エピソード記憶は成人期から徐々に低下する——加齢研究がそう示しています。
  2. 02一方で「覚えていてもらえた」体験は、誰にとっても嬉しい。この非対称が、道具をつくる価値になります。
  3. 03だからLINEにしました。国内の月間利用者数は1億。インストールという一段を、最初から無くすために。
きっかけ
01

忘れて損をした側と、覚えていてもらえた側

仕事でも、ふだんの会話でも、「前に話したこと」を覚えていられずに損をした経験があります。相手はちゃんと話してくれていたのに、こちらが持ち帰れていない。次に会ったときに、その話題に触れられない。関係が、そこで一段だけ浅くなる。致命傷ではありません。だからこそ、あとから気づきにくい種類の損でした。

逆の側も知っています。何ヶ月かぶりに行った店で、前回こぼした愚痴の続きを聞かれたことがあります。美容師さんでも、担当の営業さんでも構いません。覚えていてもらえて、嫌だった人はいないと思います。あれは特別なサービスというより、「あなたのことを、ちゃんと持ち帰りました」という合図でした。

同じ出来事の、両側で起きていること
✕ 覚えていなかった側
  • その場同じ話を、もう一度たずねてしまう
  • 相手の受けとり「興味がなかったのだろう」と伝わる
  • あとに残るもの関係が一段だけ浅くなる。本人は気づかない
◎ 覚えていてもらえた側
  • その場前回の続きから、会話がはじまる
  • 相手の受けとり「ちゃんと持ち帰ってくれた」と伝わる
  • あとに残るもの次に会う理由が、ひとつ増える
同じ出来事でも、片側では損が静かに積もり、もう片側には喜びがはっきり残ります。

損は静かに起き、
喜びははっきり残る

この非対称が、仕組みをつくる価値になりました。

前提
02

忘れるのは、意志が弱いからではありません

記憶の研究では、記憶をいくつかの種類に分けて考えます。そのうちエピソード記憶——自分が経験した出来事や、誰とどんな話をしたかという記憶は、いわゆる高齢期に入る前、成人期の段階からゆるやかに低下していくことが知られています※1

65歳より前から
エピソード記憶の低下は、高齢期を待たずに始まっている。一方で、言葉の意味や知識にあたる意味記憶は、加齢の影響をほとんど受けにくいとされています※1※2

「知識は残るのに、あの日の会話だけが抜けていく」——実感としてよくある話ですが、記憶の構造としても筋が通っていました。これを知ったとき、少し救われた気がします。同時に、はっきりしたこともありました。年々忘れやすくなるのが既定路線なら、気合いでは解決しない。仕組みの側を用意するしかありません。

補足:加齢による変化と、病気は別のものです

本記事が触れているのは健康な範囲での自然な変化のみで、病気による記憶障害とはまったく別の話です。ご心配な症状がある場合は、専門の医療機関にご相談ください。

設計
03

なぜ「写真」ではなく「人」だったのか

Santa Works では、写真を撮影日ごとに自動で仕分けするExifSort Pro(※近日公開予定)というデスクトップアプリも準備しています。同じ「記録を扱う道具」ですが、こちらはすでに残っているものを整えるための道具です。

人の記憶は、そうはいきません。その場で書き留めなければ、そもそもデータが存在しない。写真は勝手に残りますが、「今日どんな話をしたか」は誰も自動で残してくれません。だから、人の側を先につくることにしました。取りこぼしが起きているのは、明らかにこちらだったからです。

決めたこと:相手を「管理」する道具にはしない

残したいのは属性や個人情報ではなく、その人が話してくれたことのほうです。この線を越えると、便利ではあっても、たぶん温かくはなくなります。だからポケメモには、売上分析も、顧客ランク付けも、一斉配信も入れていません。

選択
04

アプリをつくらずに、LINEにした理由

いちばん迷ったのは形でした。専用アプリのほうが、できることは増えます。それでもLINE上のボットという形を選びました。理由は単純で、すでに全員が持っているからです。

1億ユーザー
LINEの国内月間利用者数(2025年12月末時点)※3。同時期の日本の総人口は約1億2,285万人※4。「1か月に一度でも起動したアカウント数」という定義を踏まえても、ほぼ全員が日常的に開いている場所だと言えます。
同じ機能を、どこに置くか
専用アプリにした場合
  • 使い始めるまでストアを開き、ダウンロードし、初回設定をする
  • いちばんの離脱点アンインストールはインストール当日に最も集中する※5
  • できること自由度は高い(画面も操作も自前で設計できる)
LINEのボットにした場合
  • 使い始めるまで友だち追加のみ。インストールが要らない
  • 置き場所毎日開くアプリの中。思い出したその場で書ける
  • できることLINEの画面の作法に従う(自由度は下がる)
自由度を手放すかわりに、入口の一段を丸ごと無くす——ポケメモはそちらを選びました。

覚えておきたい相手ができるのは、たいてい会った直後の、ほんの数十秒です。その瞬間に「まずアプリを入れてください」と言う道具は、たぶん使われません。いつも開いているところに置く——それが結論でした。

いま
05

正直なところ、まだうまくいっていません

きれいにまとめたいところですが、実際はそうなっていません。ポケメモはまだ、広く使われている道具ではありません。登録まではしていただけるのに、そこで手が止まってしまう。その理由が、こちらでもまだ掴めていません。

いま取り組んでいるのは、新しい機能を足すことではなく、その「止まってしまう一瞬」に何が起きているかを、きちんと見にいくことです。使ってくださった方に、率直なところを聞かせていただく。地味ですが、これ以上の近道はなさそうです。

忘れたくない、と思ったことを、忘れずにいられるように。

覚えていることが才能なのだとしたら、持っていない人は諦めるしかありません。でも、それが仕組みなのだとしたら、あとから足すことができます。ポケメモは、その一つとしてつくりました。もしよろしければ、ポケメモのご案内もご覧ください。使ってみて「ここが微妙だ」と思われたところがあれば、そう教えていただけると、いちばんありがたいです。

参考文献・出典

  1. ※1 こころ検定(文部科学省後援)「記憶は衰えるのか?」 cocoroken.jp/columns/memory/
  2. ※2 日本内科学会雑誌「加齢に伴う認知機能の変化」(第107巻第12号) jstage.jst.go.jp/article/naika/107/12/107_2461/_pdf
  3. ※3 LINEヤフー株式会社「LINE、国内月間利用者数が1億ユーザーを突破」(2026年1月29日発表・2025年12月末時点) lycorp.co.jp/ja/news/release/020058/
  4. ※4 総務省統計局「人口推計」(2026年6月1日現在・概算値/総人口1億2,285万人) stat.go.jp/data/jinsui/pdf/202606.pdf
  5. ※5 AppsFlyer「アプリアンインストールレポート」(アンインストールはインストール当日に最も集中すると報告) appsflyer.com/ja/resources/guides/app-uninstall-benchmarks/

ヒーロー画像: Pexels(商用利用可・帰属表示は任意ですが、出典として記載しています)。
※ 本記事は公開されている調査・報道をもとに構成しています。各数値は出典元の調査時点のものであり、調査ごとに対象・母数・時期が異なります。記憶に関する記述は健康な範囲での加齢変化について一般に知られている知見を紹介したもので、医学的な診断・助言を目的とするものではありません。

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